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最高裁判所第一小法廷 昭和40年(オ)1222号 判決

上告人

桜庭喜代次

右代理人

加藤定蔵

被上告人

大館市

右代理人

中村嘉七

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人加藤定蔵の上告理由第一点について。

所論乙一五号証(仮処分執行調書)には、仮処分執行の目的物件として(イ)の建物に続き「(ロ)同所々在木造二階建住宅一棟建坪七坪外二階七坪、とあるも木造平家で内部造作等なし」との記載がある。これによると、仮処分執行の目的物件は、所論と異なり、平家の本件(ろ)の建物たることが明らかである。なお、原判決の確定するところによれば、右建物はいわゆる不法建築物で工事続行禁止の仮処分の執行を受けたものであり、その形状の刻々の変化を正確に把握し難いのは当然であるから、仮処分決定に二階建と表示されていたにせよ、所在場所その他で特定され同一性が認められる以上、平家の(ろ)建物についての執行が可能であり、したがつて、(ろ)建物が仮処分決定の目的物件でなかつたとすることもできない。

また原審は、上告人が右仮処分の執行に対しなんらの異議を述べた形跡もなく、本件(ろ)建物は上告人の所有に属し上告人において占有しているものと認められる旨判示しているが、原判決を通読すれば、その趣旨は上告人その他、何びとからも異議がなかつたとするにあることを知ることができ、原審が右乙号証のほか、第一、二審証人小坂直司の証言を総合して、右(ろ)建物の所有・占有が上告人に属するものと認めた判断は、相当として是認しうる。

原判決には所論の違法はなく、論旨は採用できない。

同第二点について。

論旨は、原判決が所論知事の許可の有無に関する論点について判断を示していないというが、原判決の確定するところによれば、被上告市の前身である旧大館町は昭和一四年八月四日内閣より都市計画事業の認可を受けて、本件土地を含む四町九反七畝二九歩の土地を買収し、翌一五年四月三〇日県知事の墓地新設許可を受け、同一七年一月一三日公布施行された大館町共同墓地使用条例に基づいて右土地を維持管理していたもので、右土地は埋葬以外の目的に使用することができない土地であるところ、戦時下の食糧事情の悪化に伴い、その小部分が暫定的に農耕地として一部町民に解放されたが、戦後、間もなくその取扱いが再検討されるに至り、同二六年四月大館市制が施かれて後は同市条例に基づいて維持管理され、同三〇年四月ころより翌三一年五月ころまでの間に、上告人を含む耕作者全員から土地が返還された、というのである。

これによると、本件土地を含む前記四町九反余の土地は、埋葬以外の目的に使用することができない土地として、その性質が終局的に確定され、前記食糧難に基づく一時的な耕作によつて、その墓地たる性質に変動をきたすものではなく、したがつて、右土地は農地調整法または農地法にいう農地にあたらないものというべく、原判決もその趣旨で右土地を埋葬以外の目的に使用することができない土地である旨を判示したものであることを知ることができる。

よつて、原判決には所論判断遺脱の違法はなく、論旨は採用できない。

同第三点について。

原審挙示の証拠によれば、所論の点に関する原審の認定、判断は肯認することができ、その間に所論の違法は認められず、論旨は採用できない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(入江俊郎 長部謹吾 松田二郎 大隅健一郎)

上告代理人加藤定蔵の上告理由第一点〈省略〉

第二点 原判決は上告人の提出した抗弁を遺脱して上告人敗訴の判決をした審理不尽理由不備の失当があり破棄を免れない。

一、上告人は原審に昭和三十七年五月十六日準備書面を以て(同年六月二十日第二回口頭弁論陳述)左の抗弁を述べた。

「本件係争土地は元は墓地として使用させるつもりであつたが大館町は右許可に際しては特に農地として、開墾使用することを許可し永代借地料全額の納入を命じた。従つて上告人は此趣旨に於ても借地権を取得したものである。爾来上告人等に於てはこれを開墾し農地として耕作しているから農地法の適用を受ける」それ故若し被上告人が上告人に対し其の明渡を求めるには秋田県知事から借地契約の解除または解除の申入れまたは合意による解約の許可を得なければならない。(農地法第二十条参照、旧農地調整法施行時は大館市農業委員会の許可)。然るに本件土地に付ては被上告人大館地はかかる許可手続を得ていないから返地の請求が出来ない。

然るに原審は右抗弁を事実摘示にも掲記せずまた何等の判断説明もなく上告人の控訴を棄却した。

二、而して原判決は上告人が其知人親族名義で昭和十八年六月三〇日から昭和二十一年一月十七日までの間係争土地の一部を借受け右期間中合計金一、〇五〇円の使用料を支払つたこと、昭和十七年頃大館町長中田義直は戦時下の食糧事情の逼迫した状勢に鑑み右土地を町民に解放農耕地として事実上使用することを許容した事実を認定した。(原判決一五頁)

三、然らば原審は須らく前記上告人の抗弁を検討し右借地権に関し合意解除返地に付農地法または旧農地法所定の許可処分を得たか否やを審究若しかかる許可処分なくして返地を受けたとせば(上告人はかかる合意解除又は返地は一審以来極力否認している)被上告人の請求を認容することができない筈である。

四、然るに原判決は係争地は上告人が受取つて上告人に農地として使用させた事実を認定しながら其返地または合意解約につき農地法又は旧農地法所定の許可処分があつたか否やを審査しないで直ちに上告人に返地を命じたのは審理不尽理由不備の失当があり到底破棄を免れない。〈以下略〉

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